学部留年3

他学科の一限だけ出席する、という奇妙な生活が始まった。通勤・通学ラッシュに揺られ、東大前に通う日々。

長く昼夜逆転生活をしていた自分には早起きは苦行だった。一限が終わるとそそくさと(知り合いに会わないように)キャンパスを離れ、ゲーセン等で時間をつぶしていた。日中に帰宅すると昼寝してしまう→そのまま昼夜逆転してしまうので・・・

約一年ぶりに机について授業なるものを受けたわけだが、ノートを取る自分の字がひどく劣化していて悲しかった。自分の字の書き方を忘れてしまったかのようだ。恐らく筆圧を支える筋力が弱体化していることもあったのだろう。

この時既に、大学受験時に発揮された記憶力の良さはすっかり失われており、自分の数少ない長所の一つが永遠に損なわれてしまったことを予感して暗澹たる気持ちになったのをよく覚えている。

 

またこれとほぼ同時期、よせばいいのに何故か中島敦山月記を再読し、己の境遇と重ね合わせて本気で泣いてしまった。多くの読者が己の中に李徴を見出し、「これは私のための物語だ」と思わせて(錯覚させて)しまう不思議な作品だと思う。