スペイン語の左右
スペイン語では
(西)derecha:右
(西)izquierda:左
であるが、文語としては以下の単語も存在する。
(西)diestro:右の、器用な
(西)siniestro:左の、不吉な
これらの語源は以下のラテン語である。
(ラテン)dexter:右
(ラテン)sinister:左
「右」を意味するラテン語が「器用な」を意味するようになるのは直感的に分かりやすい。基本的に右利きが多数派だし。
しかし、なぜ「左」が不吉な意味を持つようになったのか?
実は「左」の良し悪しに関する慣用句がある。
(西)empezar con el pie izquierdo:左足から踏み出す
→最初から間違える、的な意味らしい。
これはどうもラテン語からの借用で、ラテン語では"sinistro pede profectus"と。多くのジンクスを持っていた古代ローマ人にとって、ある場合において左は縁起の悪い方向であった。
...が、ややこしいのはその真逆の用例もあるらしいということ。
Wiktionaryによれば、ウェルギリウスは牧歌において左側のカラス(sinistra cornix)を吉兆として描いているそうだ。
というわけで原文を検索してみると、なんと早大の先生の訳と注釈つきのテキストがネットにアップされている。素晴らしい...
http://jairo.nii.ac.jp/0069/00000332
「モエリスとリキュダス」ウェルギリウス「牧歌」第9歌 訳:野村圭介
Quod nisi me quacumque nouas incidere litis ante sinistra caua monuisset ab ilice cornix, nec tuos hic Moeris nec uiueret ipse Menalcas.
もしカラスが,左手のカシの木の空(ウロ)から,何がどうあれ悶着は打切れ,と忠告してくれなかったら,このモエリスも,メナルカス自身も生きてはいないだろうよ。
左が吉兆のジンクス、という前知識が無いと、なんで左なんだ?となりますねこれは。
ちなみにここでいう「悶着」とは、共和政ローマ最後の内乱にオクタヴィアヌスが勝利、配下に褒美の土地を配分するため、敵対派閥に属していた貴族の所領を大量に収容した際、ウェルギリウスの父親の農園も召し上げられてしまったことを指しているらしい。
※以下、ローマ人とsinister「左」についての文章(英語)。ご参考まで。
books.google.clanteとsinistraについて詳述
ローマ人にとって左は幸先の良い方向だった。
ローマ人にとってのsinister「左」の吉凶の評価はどのように変遷し、そしてやがて吉兆の意味を失ってスペイン語siniestroに至るのか?ここまで調べて力尽きました...